夢のような夢のはなし  1.世界軸 | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

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夢のような夢のはなし

夢のような夢のはなし  1.世界軸

昭和61年9月2日、私はその後の人生を変えることになる鮮烈な夢を見た。医師になって5年目。私は大学で助手を務めるかたわら、岐阜の下呂温泉にある精神病院へ週1回の当直と翌日の外来診療を手伝いに通っていた。夢は当直の明け方に見たもので、端的に言えば「大地に落雷した稲妻が、そのまま黄金の塔になる」という夢だった。

ユングの「心理学と錬金術」を読み終えたばかりだった私は、大袈裟にいえばこの夢に神の啓示を受けたような気がして、ぜひともその意味を知りたいと思った。そこで知人を介して河合隼雄さんの弟子だった精神科医を紹介してもらい、京都まで出向いて行って、私も弟子入りできないだろうかと相談してみたが、河合さんは忙しくてもう弟子を取っていないということだった。

代わりに紹介されたのが、チューリッヒのユング研究所で国際分析家資格を取得して帰国されたばかりの安溪(あんけい)真一先生だった。安溪先生は樋口和彦さんの弟子である。後年、私が上京するにあたって安溪先生から後任を託されたのが織田尚生(たかお)先生で、織田先生は河合隼雄さんの弟子に当たる。つまり私は図らずも河合隼雄さんと樋口和彦さんという、日本におけるユング研究の草分け的存在であるお二人の孫弟子になったわけである。

昭和62年4月、私は京都の御池通りにあった安溪先生のオフィスを訪ね、教育分析を受けたいと申し出た。安溪先生に動機を尋ねられた私は「精神科医として4年間診療に携わって来たが、自分が思うほどには患者が良くならない。当初は自分の指示に従わない患者に非があるのだと思っていたが、最近は自分の治療技術が拙いだけではないかと思い始めた。フロイトの精神分析理論や交流分析などを自分なりに勉強したが、今ひとつしっくり来ないと感じていたところに、ユングの『心理学と錬金術』を読んで、これこそ自分が求めていたものだと思った」という話をしたところ、「じゃ、やってみましょう」と入門を許された。

教授に事情を話して、毎週土曜日の午後は教育分析に通っても構わないという許可は取り付けたものの、当時の大学助手は薄給で、とても新幹線で通うだけの余裕がない。私は岐阜から京都までの回数券(10枚分の値段で11枚の乗車券が手に入る。確か1枚1,300円だったと思う)を買い、毎週片道2時間半をかけて各駅停車で京都を往復することになった。

冒頭の夢は第1回目の教育分析を受けたあと、安溪先生に「今までに何か印象に残っている夢がありますか」と尋ねられて話したものである。先生は「ああ、なるほど」と頷かれたあと、即座に次のような解釈をされた。

「大地から天に連なる黄金の塔は世界軸(axis mundi)である。世界軸は座標の原点を表し、それを以て方位が定まる世界の中心である。君は今まで定見もなく闇雲に治療を行っていたのだが、ユングに出会ってようやく治療の原点を見出したのである」と。

私はこの解釈を聞いて大いに納得し、以後ユンギアンの道を歩み始めることになった。

ユング派の教育分析は夢を題材に行われる。次回から夢分析にまつわる話をするが、読者は少し眉に唾をつけて聞いたほうがよいかもしれない。夢のような夢のはなしである。

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