麻雀人類学  3.食うべきか、喫うべきか | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

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院長のひとりごと

麻雀人類学  3.食うべきか、喫うべきか

麻雀の上達については特に目安があるわけではないが、だいたい半チャンを100回くらい打ったあたりでどうにか恰好がつきはじめ、400回でほぼ「趣味は麻雀です」と言えるくらいにはなるようである。

麻雀を覚えたての頃は打っているだけで十分楽しかったものだが、多少恰好がついてくると、おこがましくも賭けてやってみたくなる。いっぱしの雀士になったつもりである。

もっとも最初はみんな戦々兢々としていて、初めて賭麻雀を打ったときのレートは確か1,000点5円だったと思う。ハコテンで150円である。今からすればずいぶんみみっちい額だが、当時の一般食堂の定食がたいてい150円だったから、これでも結構エキサイトしたのである。自分の腕一本に生活がかかっているなんてのは、なんだか麻雀放浪記の「坊や哲」を地で行っているような気分ではないか。

月末を麻雀の稼ぎでシノいでいた私は、滅多に負けた記憶がないけれども、ついに最後の半チャンになっても帳尻を合わせることができずに負けてしまったことがあった。精算を終わって私の手元に残ったのは50円玉一枚きりである。

私はその硬貨を握りしめてアパートを出た。寒い冬の夜だったと思う。木枯らしの中をコートの襟を立てて白川沿いに錦林車庫(当時の市電の停留所)まで歩き、夜半まで店を開いていた小汚いよろず屋の前に立った。

私は下宿に米が多少残っていたことを覚えていたので、インスタントラーメンを2袋買えば、仕送りが届くまでの2日間を何とか食いつなげるだろうと考えた。ところが、その店に並んでいたインスタントラーメンは1袋28円もするのである。一袋23円で売っている店はもう閉まっていた。私は急に空腹を覚えた。

ふと見ると、店の横にタバコの自動販売機が置いてある。ショートホープが一箱50円である。

ここで私は迷いに迷った。一袋28円のインスタントラーメンを買って飢えをシノぐか、それともいっそショートホープを買って飢えをごまかすか。食うべきか、喫うべきか。ハムレットになったような心境である。

で、……私は結局タバコを選んだのである。

以来私は人をケムリに巻くのが三度のめしより好きになった。その証拠にこうして精神科医をしている。

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