麻雀人類学  8.サラリーマンは気楽な稼業……じゃない | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

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院長のひとりごと

麻雀人類学  8.サラリーマンは気楽な稼業……じゃない

うどん屋の出前持ちのアルバイトをしたことがある。相場が220~230円の頃に時給250円だったから、まあ悪いアルバイトではない。京都御所を南に数百メートル下ったあたりの、家族だけでやっている小ぢんまりした店である。午後5時から9時までで1日1,000円の仕事だが、当時の大学の授業料が1カ月1,000円だったから、十分採算は合うのである。

その店の若旦那が麻雀好きで、年末の2週間という雇用期限が切れる頃に、たまたま閉店間際に食事に来た常連のサラリーマンを交えて、麻雀を打つことになった。

すでに月末を麻雀でシノげるくらいになっていた私は、他流試合のつもりで勝負に臨んだ。私が学生ということもあって、レートは1,000点30円(当時のサラリーマンの相場は1,000点50円)に落ち着いた。

ハコテンで900円だから、ほぼ1日分のアルバイト代が消えてしまうことになる。もしも大負けするようなことになると、私は正月も家に帰してもらえず、借金のかたに身を売られた娘のように年季が明けるまで奉公しなければならないのだろうか……などという不吉な予感が一瞬頭をよぎったりしたが、まさか苦界に身を沈めるようなこともあるまいと思い直して牌を握ったのだった。

で……、早い話、私は負けたのである。

まず私は彼らのテンパイの速さに驚いた。5,6巡目になると、もう誰かがリーチをかけているといった塩梅なのである。次に私は彼らの作る手があまりにも安いことに仰天した。リーチのみ、1,300点なんて手でバンバン押してくるのである。こんなのは満貫一発でひっくり返してやる、と思っているうちにリーチ、ドラ3などというのが入って、あれよあれよという間に最初の半チャンは終わってしまった。

2回目は私もクソ力を出して、トータルでマイナス10点、300円の負けにとどめたが、私は学生麻雀の甘さを思い知らされた。彼らサラリーマンこそ生活を賭けて麻雀を打っていたのである。

タイムレコードをガチャンと押せば、どうにか恰好がつく……ような気楽な稼業ではない。深夜の道を最終の市電に乗るべく道を急ぎながら、不意に「彼らが今の日本を支えているのだ」という思いが湧いてきて、私は妙にしんみりとした気分になったのだった。

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