木もれ日  3.苦々学生 | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

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院長のひとりごと

木もれ日  3.苦々学生

表題は誤植ではない。これを苦学に苦学を重ねた学生と読むか、苦々しい学生と読むかは読者次第である。

当座の生活費をもらっていたとはいえ、リヤカーで引っ越しをしなければならないほどだから、早々にアルバイトを探さないと口が干上がる羽目になる。私は入学式の翌日から学生係に顔を出し、家庭教師を斡旋してほしいと持ちかけた。その日は確か医学部の上級生による新入生歓迎会が開かれていたはずだが、私はとてもそんな悠長な会に出席できる気分ではなかった。

当時の家庭教師の相場は週2 回で10,000円くらいだったと思う。私はその額で高校1年生の男子を紹介されると、早速その家に出向いて12,000円に値上げしてほしいと交渉し、商談を成立させた。多少あこぎな気がしないでもないが、その子の成績が上がるにつれて私の報酬も上がり、3年後に彼が受験したすべての大学に合格すると、両親が狂喜して50,000円のボーナスをはずんでくれたくらいだから、まあ妥当な線だったのだろう。もう1件、これは月額8,000円だったが、夕食付き(それも肉料理中心)ということで合意した。

日本育英会の特別奨学金(月額18,000円)と徳島県育英奨学金(同13,000円)も申請したが、たとえ認可されても、貸与されるのは数カ月先だという。私はほかに節約できるものはないかと考え、授業料免除制度を利用することにした。文学部時代は授業料が月額1,000円だったが、医学部に入ったときには8,000円にハネ上がっていた。これを払わなくても済むということは8,000円の収入を得ることに相当する。

授業料免除は成績優秀で、かつ親の収入が一定額以下の者にしか適用されない。そこで私は刻苦精励して勉学に打ち込んだ……かというと、そうではない。要は試験で高得点を取ればよいのである。

数学の試験では、たまたま理学部の数学科を卒業した男がいたので、彼の隣の席に座り、答案を写させてもらった。フランス語は、今さらボンジュールなんてかったるいことはやってられないので、初日の授業のときに教官と話をつけ、年度末の試験だけ受ければよいということにしてもらった。したがって私は1年間に2回しかフランス語の授業に出席していないことになる。ボンジュールの次はオ・ルヴォワールというわけである。

こんな調子で6年間授業料を免除してもらったのだから、これはほとんど詐欺のようなものではないかと思う。納税者はさぞかし私のことを苦々しい学生と思っているに違いない。

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