夢のような夢のはなし  3.客観水準と主観水準 | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

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夢のような夢のはなし

夢のような夢のはなし  3.客観水準と主観水準

夢分析には2つのレベルがある。客観水準と主観水準である。

客観水準とは、夢を見た者(以下、夢見者と呼ぶ)の連想を聞く前に、夢を夢そのものとして分析することを指す。夢見者からの情報がないので、当然解釈は曖昧になりやすい。しかし先入観を一切排除して、与えられた素材からできる限り可能な解釈を試みることが夢分析の基本になる。短い夢だと、いくつもの解釈が成り立つこともある。

しかるのちに夢見者から詳細な情報を集め、主観水準での分析を行う。客観水準で施した解釈におおむね合致する場合もあれば、見当はずれの場合もある。見当はずれは夢を分析する者、つまり私自身の個人的体験やコンプレックスが投影されている場合に生じやすい。こういう時は再度初心に返って客観水準での分析をやり直し、主観水準における分析との整合性を探ることになる。

客観水準の分析は骨組みであり、主観水準の分析は肉づけである。両者が相俟って、はじめて分析が生きたものになる。

以下の夢は35歳の男性が見たものである。

「夜の滑走路を白い複葉機が離陸しようとしている。私は飛行機の左後方に立って離陸の様子を眺めている。複葉機は10メートルも滑走しないうちにふわりと浮き上がるが、私の背ほども上昇せずに機首から墜落する。複葉機は再度滑走し始めるが、やはり浮き上がると同時に墜落してしまう。その時になって私は複葉機が鎖のようなもので吊るされていることに気づく。高さ5メートルくらいの中空を滑走路に沿って四角い鉄材が1本走っており、これが飛行機を支えているらしい。飛行機の上に鉄材がある以上、いくらやっても飛べないはずだと私は納得する」

この夢を客観水準で分析すると、まず①夜は無意識を表すから、この夢は夢見者の気づいていないことがテーマになっている。②白は移行を表すから、夢見者はこれから新しいところへ行こうとしている可能性が高い。③夢見者が飛行機の左後方にいるということは、飛行機は右前方に見えており、右も前方も意識を表すから、この飛行機の動きは夢見者がすでに知っているものであることを示している。④飛行機は空を飛ぶので、夢見者は高い地位や名誉を求めている可能性がある。また⑤複葉機はふつう練習用に使われるので、夢見者は何かの訓練を受けているのかもしれない。⑥複葉機は揚力が大きいので通常90メートル滑走すれば離陸できるが、10メートルで離陸するのはいかにも早過ぎるから、焦りが失敗につながっているように見受けられる。⑦5メートルの中空を滑走路に沿って走る鉄材など現実には存在しないから、これは夢見者の連想を聞かないことには解釈できない……、ということになる。

さて、次は主観水準での分析である。種を明かせば、この35歳の男性は私で、夢は教育分析を受け始めて半年ほど経った頃に見たものである。当時私は重金属中毒をテーマに動物実験を行い、学位論文を書こうとしているところだった。しかし実験結果に一部不満があって、2年もかけて行った実験データを持っていながら書くことを逡巡し、教育分析に逃げ場を求めていたという経緯があった。

複葉機は私が一人前の精神科医になる訓練を受けていることを指している。焦って離陸しては失敗を繰り返しているのは、学位論文を棚に上げていっぱしの分析医になろうなどという邪心を懐いているからである。中空を走る鉄材は一目瞭然、私が飛ぶために排除しなければならないもの、すなわち重金属の研究テーマにほかならない。

私はこの夢を見て目から鱗が落ち、半年かけて学位論文を提出した。この夢を見なかったら、私が博士号を取得するのはずっとあとになっていただろう。

ところで夜は無意識、白は移行、右と前方は意識などとさり気なく書いてあるが、夢に出て来る素材は何でも意味づけできるというものではない。もしできたら、それは記号になってしまう。記号で夢は分析できない。次回は記号と象徴の違いについて解説する。

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