夢のような夢のはなし  12.ペルソナ(その1) | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

0353738700

image

夢のような夢のはなし

夢のような夢のはなし  12.ペルソナ(その1)

ここ数回は数の話が続いたので、もう一度元型(archetype)に戻って解説する。ユングの分析心理学では、無意識を個人的無意識と集合的無意識に分類する。個人的無意識とはその人が体験していながら無意識のかなたへ忘却された内容を指し、集合的無意識とは人類に共通してみられるばかりでなく、極論すれば動物にも認められるような内容まで含む広い概念である。集合的無意識の内容を元型と呼ぶ。

ペルソナ(persona)は元型のひとつで、本来は古代ギリシアの演劇で用いられた仮面のことである。personaからaを取るとperson、つまり人間になる。人間とは仮面をかぶった生き物である。この仮面は社会的役割と言い換えてもよい。人間は社会の中にいる限り、しかるべき役割を要求される。職場においてはその地位に応じた役割を、家庭においては父親、母親、夫、妻、子どもなどの役割を果たすことで日常生活が成り立っている。

ペルソナを最もよく表すものが制服である。警察官は制服を着ているからいかにも警察官らしく見えるわけで、制服を脱げばただのおじさんにすぎない。しかし制服を着ている間は、警察官としての社会的役割を全うしてくれるはずである。筆者も白衣を着ている間は医師らしくふるまっているが、白衣を脱いで夜の街に出れば、ただの酒飲みに変貌する。居酒屋ではきちんと酒を飲んで酔っ払うことが、居酒屋における客の正しい社会的役割だからである。

問題はペルソナが硬化して、仮面を脱げなくなった場合である。たとえば教員が学校だけでなく、家庭でも先生を続けていたとしたら、子どもはたまったものではない。家に帰ったら父親もしくは母親へと仮面をかぶり直さなければならないのに、先生の仮面が脱げない人が結構多いのである。ペルソナの硬化は、自我が一面的になっている時に生じる。

夢の話でいうと、ペルソナは一般に衣服で象徴される。以下にペルソナが硬化した人の夢を掲げる。26歳の主婦である。

「デパートの高級洋服売り場。私はそこで出かける予定のある場所へ着て行くためのワンピースを選んでいる。ほとんど黒の礼服ばかりが下がっている。その中で、ピンク色のレースの飾りがいっぱい付いているワンピースを手に取り、体に当ててみる。が、結局買わない」

デパートの高級洋服売り場なら、品揃えが豊富であってしかるべきなのに、ほとんど黒の礼服ばかりだというのは、この女性のペルソナが格式張った窮屈なもので占領されていることを指している。これを見ただけで、この女性が杓子定規で融通の利かない性格であることがわかる。

ピンク色のレースの飾りがいっぱい付いているワンピースは、女性的なペルソナを指している。但しピンク色は、一般に赤になり切れない色ということで、未熟な女性性を表す。また、お金は一般に「自我が使えるエネルギー」を表す。自我とは意識の中心機能であるから、お金は意識の管理下にあるエネルギーということになる。つまりこの女性は、ようやく(未熟ながらも)女性らしいペルソナを見つけたのに、彼女の自我はそれを手に入れるためにエネルギーを費やすことを断念したのである。

この夢は彼女のペルソナが杓子定規なものに硬化していることと、せっかくそこから抜け出す機会があったのに、それを意図的に放棄したことを意味している。実際、彼女が女性的なペルソナを獲得するまでには、長い時間を要したのであった。

ペルソナは何も夢の中に出てくるだけとは限らない。しかるべき地位のある人が仕立てのよい服を着ていることには全く違和感がないが、やたらとブランド品を身につけたがる人がいたら、大した人物ではないと思ってよい。中身の貧弱さを架空のペルソナで覆い隠そうとしているだけのことである。服も、靴も、時計も、宝石も、バッグも、身につけているものはすべてブランド品で、中身だけがブランド品でないという典型例である。

ページトップへ戻る