夢のような夢のはなし  22.男性性と女性性(その3) | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

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夢のような夢のはなし

夢のような夢のはなし  22.男性性と女性性(その3)

思考型の人間は、一般にその対極にある感情が無意識の奥深くに抑圧され、未熟なままに放置されている。感情が未熟であるということは、感情がないわけではなく、それを過不足なく表出する技法が身についていないことを指す。ふだん滅多に怒らない人が、一旦怒り出すと容易に怒りを鎮められないのは、怒り方に慣れていないからである。ほんとうは嬉しいのに、それを十分に表現できなくて、相手をがっかりさせることもある。思考型の人間は感情が湧いてきたときに、それをどう扱えばよいのかがわからず、戸惑ってしまうのである。

未熟な感情を育てようとすれば、取りも直さずそれを表現してみるしかない。あるときは過剰に表現しすぎて相手を驚かせたり、逆に表現の仕方が足りなくて相手に不審な思いを懐かせたりする。そうやって試行錯誤をくり返しながら、少しずつ感情表現に慣れていくしかないのである。

夢分析でいうと、思考型の人間が感情を表現し始めるときによく用いられるモチーフが音楽である。とりわけピアノが多く用いられるように思う。ピアノは音階が明確で、弦楽器のような曖昧さがないからであろう。

30歳の男性がピアノを弾く夢を持って来たことがある。彼は私と同じ思考型で、感情表現が下手だった。私はそのことを指摘し、自分の心に湧いてきた感情をもっと素直に表現してもよいのではないかと忠告した。すると彼は今までピアノなど弾いたこともなかったのに、私の忠告を聞いてピアノを弾く夢を見たのだった。

それからしばらくして彼は奇妙な楽器の夢を見た。チェロのような弦楽器だが、弓に鍵盤がついていて、鍵盤を押しながら弾く仕掛けになっているのである。弦楽器はピアノに比べて音階が曖昧だと前述したが、その曖昧さがかえって感情の深みを表現することにもなる。私はこの奇妙な楽器を見て、彼がより深い感情表現を学ぼうとしているのだと解釈した。

私もピアノなど習ったこともないのに、やはりピアノを弾く夢を見た。私が自分の感情を解放しても構わないのだと開き直ったときに見たものである。

しかし感情表現は私にとって余程ハードルが高かったのか、それができるようになるまでに長い時間を要した。私が初めて自分の喜怒哀楽を表現した夢は次のようなものだった。

 

山を削り取った崖に、磨崖仏のような大きな彫像が刻まれている。しかしそれは仏像ではなく、開発当初の新幹線の先頭部分で、半球形の突端の上に操縦席の左右の窓がついているだけのものである。そのうち向かって右側の窓から水が浸みだして来て、崖を伝い流れて行くのが見えた。

 

この夢は私が初めて泣いたことを表している。開発当初の新幹線を真正面から見ると、丸い鼻の上に四角い目が二つついているように見えるであろう。目に当たる窓から水が浸みだして来たのは、新幹線が泣いているからである。こういう形でしか当初の私は悲哀の感情を表現することができなかった。ことほどさように、思考型の人間が感情を表現するのは至難の業なのである。

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