夢のような夢のはなし  23.空を飛ぶ夢、落ちる夢 | 中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科

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夢のような夢のはなし

夢のような夢のはなし  23.空を飛ぶ夢、落ちる夢

このところ肩の凝る話が続いたので、これから夢によく用いられる素材を採り上げて、その意味を解説していくことにする。

空を飛ぶ夢はたいていの人が見ているようである。実際に空を飛んだことのある人間はいないだろうし、私もまだ空を飛んだことはないのだが、夢の中ではやすやすと空を飛ぶことができる。自分が体験したこともない行為がなぜ夢に出て来るのかというと、空を飛ぶというイメージが人間の無意識の中に存在するからである。

空を飛ぶことは古代から人間が懐き続けてきた欲求である。サルが木から下りて人類が誕生したとすれば、人類は木の上という比較的安全な場所をあえて放棄したわけで、大地の恵み(穀物)を得た代償に安全を失ったと言えないこともない。その不安を打ち消すために空、すなわちより安全な高い場所への回帰を渇望する思いが無意識の中に芽生えたのではないか、それがDNAの中に組み込まれたのではないか、と私は考えている。

すでに述べたように大地は現実を象徴する。人間にとって現実は必ずしも快いものではない。オマル・ハイヤームは「ルバイヤート」の中で「人は生まれ、苦しみ、そして死ぬ」と唱っているし、お釈迦様も生老病死の業を解脱するために難行苦行を重ねなければならなかった。そういう苦しい現実から逃れる術が空を飛ぶこと、すなわち大地を離れるという形で出て来るのではないかと思われる。

空を飛ぶ夢には二つの意味がある。ひとつは地上の現実がよく見えるということ、もうひとつは現実から浮き上がっているということである。自分が置かれている現実を俯瞰するために空を飛ぶ分には問題はないが、現実から逃避するために空を飛んだとすれば大いに問題があると言わねばならない。空を飛ぶ夢を見たときは、自分が現実をよく見極めようとしているのか、それとも現実から逃げようとしているのかを考えたほうがよい。

現実から逃避することが一概に悪いとは言い切れない。自分の力で対応できない事態が生じた場合は、緊急避難することも大切だからである。しかし、それはあくまでも一時的なものであって、いずれ現実に戻って来なければならない。それが高いところから落ちる夢となって出て来る。つまり落ちる夢は現実に戻って来いという心のメッセージなのである。

高いところから落ちる夢を見た人は、たいていはっとして目を覚ます。地面に落ちるところまで見る人は滅多にいない。結末がないということは、まだ現実に戻って来るだけの解決策が見当たらないからである。解決策が見つかると、落ちる夢は降りる夢に変わる。

もし高いところから落ちて怪我をするような夢を見る人は、病理が深いと思ったほうがよい。統合失調症やパーソナリティ障害などがこれに当たる。こういう人たちは自我が脆弱なので、夢分析を行わないのが原則である。へたに病理を暴いてしまうと、取り返しのつかない結果を招く危険性がある。

空を飛ぶ夢はやがて墜落、あるいは転落する夢に変わり、最後に高い場所から降りて来る夢になる。高い場所とは山だったりビルだったり鉄塔だったり、いろんな形で出て来るが、いずれにせよこうしたところから危険のないやり方で降りて来られるようになると、それまで逃げていた現実と向き合えるようになったことを表している。

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