西武新宿線 鷺ノ宮駅徒歩4分 曽根クリニック中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科、曽根クリニックのブログ

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22.余命宣告

治験の担当医から唐突に肺転移の報告を聞かされたときは、さすがに動揺を隠せなかったが、採血を終えて主治医の診察を受ける頃にはふだんの冷静さを取りもどしていた。CT画像に映っていた肺の腫瘤影は肺炎でも結核でもなく、経過から考えて癌の転移と判断せざるを得ないものだった。

その日から治験は中止となり、私は早々に帰宅すると、妻に肺転移が見つかったことを伝えた。妻は私以上に治験に期待していただけに、その落胆ぶりも大きかったが、すぐに立ち直って、次回の診察には同席すると言い出した。私は必要最小限のことしか言わないので、主治医から直接話を聞きたかったのではないかと思う。

2週間後、主治医は術前治療によって原発巣が縮小した事実を挙げ、そのとき用いた抗癌剤を再度ためしてみてはどうかと勧めてくれたが、私はむしろ原発巣の縮小は放射線の効果によるものだと思っていたので、あえて主治医の提案を断り、代替案のパクリタキセルを使いたいと申し出た。何より、あのとき苦しめられた食欲不振と味覚障害はもう懲り懲りだという気持ちが強かったのである。

主治医と私の話が終わった頃を見計らって、妻が突然「余命はどれくらいでしょうか?」と尋ねた。主治医はちょっと面食らった様子だったが、すぐに妻のほうに向き直って「おそらく10カ月、長くて1年でしょう」と事務的に答えた。

診察室を出たあと、私は早速始まる新しい抗癌剤治療のために居残り、妻はそのまま帰宅した。薬剤師からパクリタキセルの作用と副作用、治療中の注意事項などの説明を受け、看護師に案内されて点滴用のベッドへと向かう。

化学療法を専用に行うフロアには100床ほどのベッドが整然と並んでおり、パソコンが装備されたワゴンを押して、おおぜいの看護師が忙しそうに通路を行き来している。ベッドは満席で、朝から稼働しているというのに、夕刻になってもまだ時間待ちの患者が残っている盛況ぶりである。

案内されたところはベッドというより肘掛けつきの安楽椅子で、背もたれと膝から先の足を置く部分の角度がリモコンで自由に操作できるので、自分が最も楽な姿勢で点滴を受けられるように設計されている。その気になればイヤホンをつけてテレビも観られるという贅沢な造りである。

仕度を調えて待っていると、抗癌剤を載せたワゴンを押して担当看護師がやって来て、簡単な問診のあと手際よく静脈を確保し、早速点滴が始まった。2時間ほどは何もすることがないので、先ほど宣告された余命について考えてみた。

5年生存率はパーセント表示なので、5年後に自分が生きているのかどうか曖昧だが、余命はその点明快である。しかしあくまでも予測であるから、当たるとは限らない。それに余計なトラブルを避けるために、医師はたいてい余命を短めに宣告するものである。

そうはいっても期日を区切られることの重みは半端でなく、うっかりと何の準備もしないうちに宣告通り死んでしまったりすると、「医者のくせに」とバカにされること必定である。重視するには胡散臭く、軽視するには危険という厄介な代物なのである。

今から思うと余命10カ月なら去年の5月、長くて1年としても7月には私は死んでいたはずなので、結局余命宣告ははずれたわけだが、それで何か得をしたかというと、骨折り損のくたびれもうけというか、死にそこなって疲れただけのような気がするのは、私がヘソ曲がりだからであろうか?

(診療は平常通り行っています)
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