西武新宿線 鷺ノ宮駅徒歩4分 曽根クリニック中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科、曽根クリニックのブログ

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3.生存率

5年生存率30~40%をどう見るか?

半分以下だから低いと悲観的になる人もあれば、3人に1人は生き延びられると前向きに考える人もあるだろう。医師にとっても5年生存率は予後をイメージする上で重要な指標である。

しかし、実を言うと患者にとってこれはほとんど何の意味もない。患者が知りたいのは自分が5年後に生きているのか、それとも死んでいるのかという二者択一だが、5年生存率はこれに答えていないからである。

極端な話をすると飛行機が墜落する確率は極めて低いが、墜落するとほぼ助かる見込みはない。飛行機に乗る人にとっては墜落する確率がいかに低かろうと、結果は生きるか死ぬか、フィフティフィフティである。これを主観的確率という。

主観的確率が五分五分だからといって、飛行機を恐がる人は滅多にいない。まず落ちることはないと知っているからである。

これとは逆にほとんど起こり得ないことを期待する人もいる。宝くじである。

宝くじの期待値は40そこそこ。100円払って40円もらうために、わが国では年末に長蛇の列ができる。理性を尊重する私には理解しがたい現象だが、ここにも当たるか当たらないか二つに一つという主観的確率が働いているようである。

話がわき道にそれてしまったが、5年生存率30~40%と聞いて私が思ったのは「プロ野球のバッターなら一流だけど」ということくらいだった。

しかし妻は違った。5年後に私が生きている確率は半分もないと聞いて、最初は気落ちした様子だったが、すぐに立ち直った……らしい。らしいというのは、妻からは何も聞いていないからである。しかし妻のその後の行動を見ると、すぐに立ち直ったとしか思えないふしがある。

妻は買い物が好きである。同じようなものをいくつも買う。靴なんか売るほど持っている。「前世はムカデだったんじゃないの」と皮肉を言っても一向にコタえない。

その妻がアメリカ製の何とかとスイス製の何とかを買いたいと言う。何とかとは調理道具なので私には判断できない。「よきにはからえ」ということになる。妻はまたヨーグルトとハチミツを注文したいと言う。「よきにはからえ」である。

話は少し先に飛ぶが、手術を受けて退院して来た私を待っていたのは、毎朝たっぷりの生ジュースとハチミツ入りヨーグルトだった。ジュースにはニンジン、レモン、リンゴ、大豆をベースに小松菜、トマトなどが入っている。スムージーではないので、コップ1杯分絞るのに半端でない量の野菜と果物が必要になる。妻が外国製の何とかを買ったのはこのためだったのである。

さらにヨーグルトはロシアから、ハチミツはニュージーランドからの取り寄せだという。ジュース用の野菜と果物を含めて、いずれも癌に対する免疫を高めると言われている素材ばかりである。

妻は私が入院している間に癌の食事療法に関する本を読みあさり、私の癌を食事で治そうとしているのだった。朝のジュースとヨーグルトばかりでなく、昼食にも免疫力を高める料理がいくつも並ぶ。科学的根拠のない民間療法を私は頭のどこかでバカにしていたが、妻の執念を目のあたりにして何も言えなくなった。

あれからもう1年になるが、この間ただの一度たりとも生ジュースとハチミツ入りヨーグルトが欠けることはなかった。私は妻が風雨や雪の中を、あるいは炎天下を黙々と買い物に歩いていた姿を知っている。妻の料理が癌に効くかどうか、主観的確率は五分五分だが、私はもちろん効くと信じている。

(闘病中ですが、診療は平常通り行っています)
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