西武新宿線 鷺ノ宮駅徒歩4分 曽根クリニック中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科、曽根クリニックのブログ

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12.くしゃみが出ない

これまではおおむね時系列に沿って書いてきたが、手術の前後で生じた思いがけない変化の数々を紹介するために、時間の経過はしばらく無視することにしたい。

最初に異変に気づいたのは退院してすぐの頃だった。くしゃみが出そうになって口に手を当てたところ、不発に終わったのである。ハックションとなるはずが、ハーッで止まってしまい、あとはフーと鼻から息が漏れただけでおしまいになった。「ハックション」が「ハーッ、フー」という、何とも間の抜けたため息に変わってしまったのである。

何だこれは、と思ったが、最初はさほどこだわったわけではない。ところがその後もくしゃみが不発に終わることが続き、ようやくこれは容易ならぬことが生じたと気づいた。くしゃみが出ないと、こんなに落ち着かなくなるものだとは思いもしなかった。

ハーッまでは正常なので、吸気は問題ないということである。一方クションが出ないということは、呼気に問題ありということになる。

なぜクションに必要な呼気ができないのか?

やがて私は横隔膜に穴が開いているからだと気づいた。横隔膜には裂孔があって、そこを食道が通って胃につながっているのだが、この裂孔はふだんは閉じている。閉じなくなったら胃液が逆流して食道炎を起こすことになる。

ところが私は食道を全摘したので、代わりに胃の上部で長さ25センチの管を作り、横隔膜裂孔を通して咽頭下部まで引っ張り上げてつないであるため、裂孔は常に開いた状態になっている。腹圧が高まると、胃の中に残っていた空気が裂孔から押し出されてため息になり、腹圧が下がってクションが出なくなったのだと気づいた。

同時に、これは厄介なことになったと思った。尾籠な話だが、以前のように腹圧をかけられないとすると、排便のときに苦労することになる。私は便秘にならないよう食事に気をつけるとともに、さっそく腹圧を高める工夫にとりかかった。

試行錯誤の結果、横隔膜裂孔が開きっぱなしである以上、胃の中の空気が押し出されるのは仕方がないので、のど元をぐっと閉めて外に空気が漏れないようにするしかなかった。以前より腹圧は低下するが、くしゃみはちゃんと出るようになった。

くしゃみは解決したが、今度は嘔吐に悩まされることになった。裂孔が解放状態にある以上、容易に推測されることではある。しかし、これほど頻繁に生じるとは思わなかった。食後に歯磨きをして前屈みになっただけで腹圧が高まり、嘔吐しそうになるのである。咳をしただけで嘔吐してしまったこともある。

せっかく食べたものを吐いてしまうようでは、術後に生じた体重減少を取りもどすことができない。今度は逆流を防止するための対策を立てねばならなくなった。

胃の上部は管にされてしまったので、消化に使えるのは残った胃の底部である。以前と同じように食べるとすぐに満杯になり、ちょっとした刺激で嘔吐してしまう。もどかしいけれども少しずつ食べて、胃の内容物がすべて十二指腸へ送り込まれるまで待つしかない。胃が空っぽになれば、嘔吐は生じないはずである。

厄介なのはその間上体を直立させていなければならないことである。寝そべったりすると、たちまち食べたものが出て来てしまう。

食事中も食後も姿勢を正しくするようになったので、行儀は良くなった。しかし肩は凝るし、食事がまずくなったような気がするのが残念でならない。

(闘病中ですが、診療は平常通り行っています)
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