西武新宿線 鷺ノ宮駅徒歩4分 曽根クリニック中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科、曽根クリニックのブログ

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15.白衣の天使

ここ3回ほどは手術の前後における身辺の変化を中心に書いてきたので、今回は手術直後のICUまで時間を巻き戻すことにする。

術後初日は目が覚めるたびに「サイダー飲みたい!」と心の中で叫び続けた1日だったが、翌日は嘘のようにおさまった。検温、血圧、血中酸素濃度測定に続いてポータブルX線撮影装置で胸部と腹部の撮影が行われ、小休憩のあと早速歩行訓練が始まった。

看護師に支えられながらおっかなびっくりベッドから降りる。幸い傷が痛むことはなかったが、足に力が入らず、ふらついて倒れそうになった。10時間に及ぶ手術というのは、相当に体力を消耗するものらしい。

それまで自分がどんな姿になっているのか想像もつかなかったが、点滴台を押しながらICUの空いたフロアをゆっくり歩いているうちに、鏡に映った自分を見て驚いた。

身体のあちこちから何本ものチューブが出ていて、上方は輸液製剤や抗生物質などが満艦飾に吊り下げられている点滴台へ向かい、下方はハルンバッグにつながっている。一見すると点滴台からエネルギーをもらって動いているロボットに見えなくもない。

自分の身体ひとつでは生きて行けない状態であることが一目瞭然で、ヘソの緒ひとつで羊水に浮かんでいる胎児に戻ったような頼りなさを感じた。

最初の歩行訓練は数分程度だったが、終わったあとは疲労が激しく、肩で息をするありさまだった。そのままベッドに横たわると、腕を上げるのも億劫になり、マグロのように転がっていたところ、看護師が来て身体を拭き、着替えをさせてくれた。

身体がすっきりして気分よくうたた寝をしていたら、今度は無性に頭が痒くなってきた。

手術中は頭皮から脂汗が大量に出るのであろうか? ICUで意識が戻ったときから髪の毛がベタベタして気持ちが悪いと思っていたが、だんだん頭が痒くなり、とうとう我慢できなくなったのである。

するとそれを見計らったように看護師から「シャンプーをしましょうか?」と声をかけられた。何というタイミングの良さ! 地獄に仏とはこのことかと、欣喜雀躍して(実際は洗髪台までノロノロと歩いて)頭を洗ってもらう。

点滴台を避けながらチューブだらけの人間の頭を洗うのは結構大変な作業だと思うのだが、看護師は手慣れた動作で、しかも文字通り「痒いところに手が届く」申し分のなさで、難なく洗髪を終えてしまった。

それまで大きな病気をしたこともなく、身の回りの世話をされた経験がなかった私は、そのきびきびした動きと手際のよさに感心するとともに、患者にとって看護師ほど身近で頼もしい存在はないのだと認識を新たにした。その上にこの細やかな気配り――私はICUで久しぶりに「白衣の天使」という言葉を思い出したのであった。

ところで(こんなことにこだわるのもどうかと思うが)天使とは霊的な存在で、男性でも女性でもないとされている。キリスト教世界に数多く残されている宗教画を見ても、女性の姿をした天使には私はまだ出会ったことがない。それなのになぜわが国では看護師が白衣の天使と呼ばれるようになったのか?

一神教の社会が父性主義であるのに対して、日本は多神教で母性主義が色濃く残っている。太陽神が男性でなく、天照大神という女性である国はほかに例を見ない。

その是非はともかく、天使すなわち天の使者がいつのまにか女性になってしまった背景には、そういう民族性が深く関わっているのかもしれない。

(闘病中ですが、診療は平常通り行っています)
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