西武新宿線 鷺ノ宮駅徒歩4分 曽根クリニック中野区鷺ノ宮から徒歩4分の精神科・心療内科、曽根クリニックのブログ

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16.誤嚥

本欄13の「ボーッと生きてました」で「肺に替わってガス交換をしてくれる装置など、いまだかつて開発されたためしがない」と書いたが、その後新型コロナウイルスの重症例の治療でECMO(extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)という人工心肺装置が使われていることを知った。医師としてあるまじき失態で、申し開きの余地もない。

筆者の不勉強のせいで誤った情報を流してしまいましたことを、この場を借りて深くお詫び申し上げます。

縫合不全も感染症も生じず、歩行訓練も順調だったので、予定より1日早く一般病棟に戻ることができた。私の身体に残った管は胃瘻と痛み止めのオピオイドを腰椎から注入するチューブと尿道カテーテルの3本だった。

胃瘻といっても、私の場合は胃管を作った残りの胃が横隔膜下の正中部にほぼ固定されている状態なので、ストッパーの必要はなく、表皮から直接胃にチューブが入り、その先端は十二指腸を通り過ぎて空腸に達している。形態は胃瘻だが、機能は腸瘻である。

痛み止めのオピオイドは、術後の傷が痛むことがなかったので使う機会もなかった。腰椎から伸びているチューブの末端に手で握れる装置があり、親指でボタンを押し込むと必要量のオピオイドがワンショット注入される仕組みになっている。痛いからといって続けて押しても、必要量以上は注入されないというスグレモノである。

せっかく取りつけてもらったのに、使わないままはずされてしまうのは心残りなので、痛くもないのにワンショット押し込んでみたが、何も変化はなかった(当たり前だ)。

術後の痛みがなかったわけではない。何かの拍子に咳き込んだりすると、胸腔鏡と腹腔鏡を刺入した穴(胸部に4カ所、腹部に5カ所)の傷痕が、腹圧の急激な上昇によって一斉に痛みを発し、その激痛のためにしばらく息ができなくなるほどだった。

息を止めていると痛みはやわらいで来るのだが、今度は酸素飽和度が低下して気が遠くなる。気を失う寸前で我慢できずに息をすると、それをきっかけにまた咳き込み、激痛に襲われるという地獄の苦しみを何度か味わった。

中でも一番苦しかったのは、すでに書いたように、誤嚥性肺炎になったことだった。

夜中に激しい悪寒に襲われ、身体がガタガタ震えて止まらなくなった。ナースコールを押すと看護師が飛んで来て、掛け布団を追加してくれたので震えは止まったが、今度は40度を超える熱が出た。ポータブルX線撮影装置で肺炎と診断され、抗生物質の点滴が始まった。

その一方で酸素飽和度が徐々に低下し、喘ぐような呼吸になった。溺れるとはこういう感覚かと、気が遠くなりかけた頭で考えていたら、突然呼吸が楽になり、頭がはっきりしてきた。酸素吸入が始まったのである。このときほど酸素のありがたさと、肺という臓器のありがたさを感じたことはなかった。

後日肺炎の原因は誤嚥だと聞いたとき、私はすぐには納得できなかった。術後の縫合不全を乗り切ったとはいえ、まだ水一滴口にしたことがないのである。どこで誤嚥が生じたというのか?

誤嚥とは飲食物を嚥下したときに生じるものだと、私は勝手に思い込んでいたのだが、誤嚥するのは飲食物とは限らない。私の場合は唾液がいつのまにか縫合部位を通過して気管に流れ込んでいたらしく、唾液に含まれる口腔内の雑菌が肺炎を起こしたのであった。

誤嚥はその後もくり返し生じており、肺炎こそ起こさないものの、細菌性喀痰として今や日常茶飯事となっている。

(診療は平常通り行っています)
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